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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1091号 判決

静岡県富士市比奈七六〇番地の一

控訴人

春日製紙工業株式会社

右代表者代表取締役

久保田元也

右訴訟代理人弁護士

北山陽一

右輔佐人弁理士

岩瀬真治

大阪市東区京橋三丁目六二番地の一

被控訴人

ナカバヤシ株式会社

右代表者代表取締役

滝本安克

右訴訟代理人弁護士

野玉三郎

右輔佐人弁理士

古賀貢

主文

一  原判決主文三項を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月二七日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の金員支払請求を棄却する。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は一、二審ともこれを五分しその一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

四  この判決は前一項1に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は原判決別紙目録(三)1、2記載の物件を製造し、または販売してはならない。

4  被控訴人は前項各物件を廃棄せよ。

5  被控訴人は控訴人に対し金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月二七日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

7  3ないし6項につき仮執行宜言。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は次のとおり付加訂正補充するほかは原判決事実摘示及び同添付別紙目録(一)ないし(三)、実用新案公報(昭和五三-二七〇六三)のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決三枚目表一二行目末尾に「として右出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)に次のとおり記載されている。」を、同四枚目表一二行目末尾に「と問題点」を、同表七行目の「公報)」の次に「、この外同じ粘着剤を縁部にも塗布する考案は五件もあり(以下同じ粘着剤を縁部にも塗布する考案を便宜「全面塗り型」という)」を、同五枚目表二行目の「公報)」の次に「(以下便宜両者を「縁部余白型」という)」を各付加し、同四行目始めから同六行目の「従来の」までを、「そして縁部余白型の」と、同表一行目の「ある。」を「あり、」と、同八行目の「ある。」から同行末尾までを「あつた。」と、同九行目始めから同六枚目表三行目末尾までを次のとおり各訂正する。

「(三) 本件考案の目的と作用効果

そこで、右従来の技術上の問題点を解決するため、本件考案はアルバム台紙厚紙の全面に不乾性粘着剤を塗布し、かつ縁部において仮着フイルムに対する常時の密着性と容易剥離性を兼有するよう、厚紙の中央部と縁部の粘着力に差を生ぜしめる手段を講ずることとしたものである。そしてアルバム台紙に通常使用されるラテックス系不乾性粘着剤の粘着力は、塗布工程で水で薄めるとしても加熱乾燥工程で水分は完全蒸発するため、結局残存する粘着剤の主剤(天然ゴム等)及び添加物(老化防止剤等)からなる固形成分の配合構成内容と単位含有率によつて決まり、右固形成分が同じ粘着剤については粘着力は塗布量によつて決まるところ、本件考案においては、右目的達成の手段として、粘着力が中央部塗布の粘着剤のそれより小さい別種の粘着剤を縁部全面に塗布する構造を意識して限定したものである。このことは本件考案の明細書、図面における文言、及び同書等に同一成分の粘着剤を塗布する場合に構造、形状として必然的に特定を要する中央部と縁部の塗布層の厚さの差異の説明、図示が全くない点、後記(三、四)で控訴人自認の本件考案出願経過における控訴人の明細書の訂正経過、控訴人の本件直後出願の実用新案権(実公昭五四-二七一号)の出願経過、と同明細書における粘着剤の説明から明らかである。

そして、右限定された本件考案の作用として中央部と縁部の密着力に差が生じ、その効果として別紙明細書記載(2欄二一行目以下)の製造過程における縁部の過乾燥の防止、製品としての前記ベタ塗り型、縁部余白型の欠点を解消した安価な粘着剤による高品質の台紙の提供が可能となつた。

二  原判決六枚目表一行目冒頭に「因みに」を付加し、同七行目の「また」から同一一行目の「できない。」までを「しかも、加熱乾燥工程は中央、縁部ともに一回でなさねば他方が過乾燥となるのであり、本件考案はその実施が工藥技術としては極めて困難なもので机上の空論に近く、」と、同七枚目表一二行目の「もつとも」を「しかるに、控訴人は本件考案の構成は要するに『縁部に中央部より粘着力の小さい粘着剤が付着している』構造、すなわち縁部の粘着力が中央部のそれより小さく仕上つていることであつて、粘着剤の種類を問わない旨主張し、」と、同七枚目表八行目の「本件」から同八枚目表一行目末尾までを「実用新案確の付与される考案は自然法則を利用した技術的思想の創作、すなわち、出願時の技術水準下における問題点を解決するために講ずべき手段を構成する技術的思想の創作のすべてではなく、そのうち方法に関する考案を除き、あくまで特定の物品の形状、構造組合せに関する考案に られるのであるから、控訴人主張の「構造」は、右手段を講じた結果の作用的表現に過ぎず、右意味の構造といえない。そういえるためには右結果を生ずる作用の発生源たる特定の物品の形状、構造を表示することが必要であり、そのために、控訴人は本件考案として台紙の中央部と縁部に粘着力を区別基準とする別種の粘着剤を塗布する構造としたものである。」と、同八枚目表六行目始めから同一一行目の「新案」までを「しかるに、控訴人は本件考案出願の経過で、」と各訂正し、同九枚目表四行目末尾に「よつて、イ号物件の中央線状部と同一粘着剤の浸潤は本件考案の技術的範囲に属しない。」を付加する。

三  原判決九枚目表五行目冒頭の「(三)」を「(二)」と、同一二行目の「公報」から同表一行目の「であり」までを「同考案の目的である縁部におけるフイルムとの密着性を確保する手段であるところ、一般市販のアルバムにおける厚紙中央部の粘着剤の塗布層の厚さは最低三〇ミクロンであることは公知の事実であるので、本件考案における『縁部の粘着剤の塗布』も右程度の厚さの塗布層を意味するから」と、同表八行目冒頭の「(四)」を「(三)」と各訂正し、同所の「方法」の次に「は同一粘着剤溶液槽にドブ けされるグラビアローラーによつて厚紙中央部に粘着剤を塗布し、右ローラーにドクターローラーを押しつけて余分の粘着剤をぬぐい去る、当時において公知の製造装置によつているものであつて、この装置」を、同一〇枚目表一行目末尾の次に「したがつて、右公知の装置により不可避的に生ずる縁部余白型の縁部における中央部塗布の粘着剤の浸潤をも本件考案の技術的範囲に属するというならば、本件考案出願公知の縁部余白型台紙はすべて本件考案を侵害することとなり不合理である。」を付加し、同二行目冒頭の「(五)」を「(四)」と訂正する。

四  原判決一二枚目表三行目の「、2の各事実は認める。」を「の事実、2の事実は、そのうち(一)(A)(C)(D)は認め(B)は争う、同(二)は認め、(三)はそのうち本件考案が中央部と縁部について別種の粘着剤を塗布する構造を意識限定したこと、その主張事実が右限定根拠となる点は否認し、その余は認める。」と、同九行目の「の冒頭」を「は、冒頭の本件考案の技術的範囲に関し控訴人のなす主張、(三)の被控訴人の製造装置は認め、主張の浸潤に止まつていること」と各訂正し、同一五枚目表二行目末尾に「そして本件考案の製造方法を実施した結果えられる特定の形態(構造)とイ号物件の製造方法を実施した結果えられる形態(構造)が同じであれば、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するというべきであるところ、本件考案出願当時、本件考案の構造である「縁部の粘着力が中央部より小さく』するための方法として〈a〉水で薄めた粘着剤を塗布する方法、〈b〉粘着剤を薄く塗布する方法、〈c〉老化防止剤を入れた粘着剤を塗布する方法が公知技術であつた。ついで本件考案の後記出願経過より明らかなとおり、本件考案には右〈a〉〈c〉の製造方法が含まれており、ただ〈b〉方法は記載されておらず、イ号物件はこの方法により製造されているところ、右〈a〉〈b〉〈c〉いずれの方法の実施結果によつても同じく、本件考案の構造である縁部に中央部より粘着力が小さい粘着剤が付着している特定の形態がえられるから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。」を付加する。

五  原判決一六枚目表六行目の「であつた」を「であつて、本件考案がアルバム台紙に使用する特殊な接着剤についての考案であると誤解した全く的はずれのものであつた。」と、同七行目の「そこで被告は」を「しかしながら、控訴人は、右査定の誤解が縁部の粘着力を弱める方法まで記載したことに起因するのではないかと判断し、」と各訂正し、同一〇行目の「でもつて、」の次に「右両粘着剤を包含し、かつ簡単な表現である」を付加し、同一七枚目表一一行目の「おり」がら同末行の「り、」までを「いるが、右のとおりの経過によるものであつて、明らかに的はずれの拒絶査定のために、それ以前の請求の範囲に含めていたものを意識的に除外する理由は全くなく、従つて、右〈ヘ〉には〈イ〉〈ニ〉を含み、右〈イ〉〈ニ〉〈ヘ〉間に意味内容に全く変化はないのであつて、」と、同一八枚目表一一行目の「反論」を「前項に対する認否と反論」と、同一二行目の「現在」から同表八行目末尾までを「前項1は、イ号物件が本件考案の構成要件のうち(A)(C)を充足することは認め、その余は否認する。同2は否認する。同3は、冒頭事実、同(一)は本件考案出願当時アルバム台紙の全面塗り型において中央部より縁部の粘着力を小さくする方法として控訴人主張の(a)ないし(c)の公知の方法があつたこと、本件考案の(B)構成要件に右(c)の方法を構成する老化防止剤で増量した粘着剤を塗布する構造が含まれることは認めるが、その余は否認する。なお、本件請求の範囲記載中の『塗布して』なる用語は製造方法の記載でない。同(二)は、そのうち本件考案の出願審査経過における外形的事実関係のみ認め、その余は否認する。同4(一)は否認し、同(二)は争う。」と、同二〇枚目表三行目全文を「このことは実公昭五四-二七一号公報の実用新案確(以下「本件後願考案」ともいう)の出願経過と明細書記載によつても表付けられる。すなわち同考案は本件考案の出願」と各訂正し、同二一枚目表一一行目と一二行目の間に次のとおり付加挿入する。

「4 本件考案及び本件後願考案にわいて拒絶理由及び補正の理由として控訴人の主張するところは正しくなく、拒絶理由は考案登録請求の範囲の記載が明確でないためであり、補正は権利範囲を限定したものである。すなわち、請求の範囲は権利の限界を示すものであるから、考案のかかる物品の形状、構造又は組合せを一定のものとして特定されねばならないところ、当初の『薄めた不乾性接着剤』なる記載では、〈イ〉水で薄めて、塗布する固形成分の量を減らした場合、〈ロ〉水で薄めるのでなく、固形成分を薄く塗布した場合、〈ハ〉増量剤を加えた場合、を含むのかどうか範囲が漠然として限界が定かでないから、右記載のままでは拒絶されざるをえず、粘着力を基準とするため明確に他と区別できる『粘着力が前記不乾性粘着剤より小さい粘着剤』により中央部と縁部の粘着剤の構造を限定して補正したことにより登録されるに至つたのである。

六  原判決二二枚目表八行目末尾の次に「そして、本件考案の構成要件は本訴請求原因2(一)(A)(C)(D)及び(B)は前記三3のとおりである。」を付加し、同二三枚目表一行目の「認める。」を「本訴請求原因1、2(一)の限度で認め、その余は争う。」と訂正し、同六行目と七行目の間に次のとおり付加挿入する。

「三 双方の主張

前記本訴一、6、同二5、同三、四のとおり。 」

第三  証拠

原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求を主文の限度で認容し、控訴人の反訴請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は以下のとおり付加訂正するほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決二四枚目裏二行目の「前記」を「被控訴人製造のアルバム台紙であることに争いない」と、同二五枚目表二行目の「前証拠」を「前掲検甲一号証」と各訂正し、同裏一二行目の「そこで」から同二六枚目表三行目末尾までを次のとおり訂正する。

「本件考案の技術的範囲の確定とイ号物件が同範囲に属するかについてみる。実用新案権の効力の及ぶ範囲はその客体である特定の考案の技術的範囲により画されるところ、この技術的範囲の確定は願書添付の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載という表示行為の有する意味を客観的に解釈することによつてなされるのであつて、この解釈は出願時の公知技術、出願人の認識意図、明細書の詳細な説明(添付図面を含む)を解釈材料として、しかも右明細書の技術用語は全体を通じて統一して普通の意味の学術用語として用いられているものとして(実用新案法(以下「法」という)施行規則二条、様式第三備考七、八)なすべきものである。すなわち、実用新案権による考案の保護は、本来考案者が創作し認識した範囲内に限られ、出願人が実用新案権付与を請求した限度をこえて与えられるべきでないのである。したがつて考案者ないし出願人が発明の技術的範囲に属さないと認識していに事項は技術的範囲に含めて解釈すべきでないのであつて、出願補正過程において表明された出願人の意図、趣旨、同一考案者による同種考案も解釈材料となるのである。そして、実用新案権は、発明と同じく自然法則を利用した技術思想の創作に関するものであるが、そのうち高度でない「考案」でかつ物品の形状、構造、組合せに限り与えられるのであつて、方法に関する考案は含まれず、しかも、右権利が排他的独占支配権であるところから、右考案は特定のものであることを要し、したがつて「構造」についても特定の形状或いは、物理的又は化学的分析により区別できる構造からなる物品相互の機械的有機的結合体(質的又は量的構造でない)でなければならす、右のような構造のもたちす自然法則による作用、或いは結果(状態)は構造たりえないのである。以上に反する控訴人の主張は独自の見解で採用できない。ところで、本件考案の構成要件が(A)ないし(D)の構成要件及びその結合からなること、同(A)(C)(D)の意味については当事者間に争いがなく、(B)の意味につき、被控訴人は文字どおり、厚紙の中央部に塗布された不乾性粘着剤と、粘着力を基準として右粘着剤より小さい点で区別できる別種の不乾性粘着剤が上下縁部に塗布されている構造を意味する旨主張し、控訴人はこれを争い、中央部と縁部の粘着力が前者より後者が小さく仕上つていることが構造であつて、粘着剤の種類を問うものでない旨主張するので、以下右の観点から本件考案の構成要件(B)の意味を解釈する。

2  原判決二六枚目表四行目の「右構成」の前に「まず、」を、同九行目の「結果「」の次に「塗布層として」を、同一〇行目の「ある」の次に「(以下右の意味で「塗布」の用語を使用することもある)」を各付加し、同一〇行目と一一行目の間に次のとおり付加挿入する。

「(一) 考案は出願当時の当該産業分野における従来の公知技術上の問題点を解決する新規な技術的思想であるから、本件考案出願当時アルバム用台紙の公知技術水準と問題点についてみるに、それが請求原因2(二)のとおりであつたこと、つぎに右全面塗り型、縁部余白型双方の技術上の欠点(問題点)を解決するための手段として、アルバム台紙全面に不乾性粘着剤を塗布しつつ、中央部と縁部の粘着力に差を生ぜしめる方法を講じ、この粘着力の格差作用によつて常時の密着性と容易剥離性を確保し、もつて前記問題点(欠点)を解清した効率的製造過程と台紙の高品質化の効果を期待したものであること、本件考案出願当時のアルバム台紙には通常ラテツクス系不乾性粘着剤が使用され、塗布工程で薄めるために加えられる水分は加熱工程で完全蒸発してしまうため、右粘着剤の粘着力は蒸発の結果残存する粘着剤の主剤(天然ゴム等)及び、添加物(老化防止剤等)から成る固形成分の配合構成内容と単位含有率によつて決まり、右固形成分が同じ粘着剤については粘着力の大小は塗布量(盗布層の厚さ)によつて決まること、本件考案出願当時ベタ塗り型アルバム合紙の中央部より縁部の粘着力を小さくする方法としては、〈a〉水で薄めた粘着剤を塗布する方法、〈b〉粘着剤を薄く塗布する方法、〈c〉老化防止剤を入れた粘着剤を塗布する方法が公知技術であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二) アルバム台紙の従前の問題点とこれを解決する目的、その手段として講ずべき方法、粘着剤の粘着力の科学的構成に関する前項判示に加え、考案が物品の特定の形状に関するもの、又は科学的に区別できる特定の素材物品若しくは特定の形状の物品が相互に機械的に結合している特定の物品の構造に関するものに限られることに照らして検討すると本件考案において、台紙の「縁部の粘着力が中央部より小さく仕上つていること」は、右問題点解決のための手段(「塗布」なる方法又はその構成要素というべき考案)を講じた結果若しくは同結果のもたらす科学的作用の状態の表示であつて、前記意味の特定の「物品の構造又は形状」の表示とは解しがたく、この「構造」に該当するものは、右結果を発揮せしめる原因である種々の手段のうちの、特定の物品の機械的結合構成に限られるというべきである。したがつて、前記粘着力の格差を生ぜしめる手段を物品たる中央部と縁部の粘着剤の塗布層についての考案としてみるに、例えば〈イ〉台紙の中央部と縁部の塗布形状自体に相違などの特色はないが、両部の粘着剤が各固有の粘着力の点で相違するものが結合している「構造」、〈ロ〉両部の粘着剤は粘着力の点で同じものであるが塗布層の厚さの形状において中央部が厚く縁部が薄い「形状」、又は〈ハ〉両部の粘着剤が同じで塗布の厚さも同じであるが、塗布平面の分布面積において中央部より縁部の密度があらい「形状」、等種々ありうることとなるところ、本件構成要件(B)が、いかなる特定の物品の形状、構造を意味するかが解釈されるべきこととなる。したがつて前記手段を講じた結果が物品の特定の構造にあたるとする控訴人の主張は到底とりかたい。」

3  原判決二六枚目表一一行目の「まず」を「ついで、本件明細書中の」と、同二七枚目裏三行目冒頭から同八行目末尾までを次のとおり各訂正する。

「他方、本件明細書の詳細な説明欄及び添付図面上、中央部と縁部の粘着剤の塗布層の厚さの側面形状について、前者が後者より薄い形状をなしている旨又は同形状をなす場合があることについては全く記載がなく、かえつて右形状の図示では、中央部と縁部の各粘着剤に「2」、「3」と別番号で区別して表示され、厚さについてに同一かのように図示されている。以上の記載と図示に、右記載中塗布工程が別々である点(一欄一四ないし一九行)、同記載の「粘着力」は技術用語として学術用語であり、前記のとおり同用語は普通の意味に全体を通じ統一的に使用すべきこと、粘着力の決定要因及びその大小の法定基準についての前記の公知の科学的知見を総合すれば、右明細書の詳細な説明欄においては、中央部と縁部の各粘着剤については、粘着剤固有の粘着力を区別基準として「普通」と「粘着力の小さい」別異の粘着剤として表示していると解すべく、この点について請求の範囲欄の中央部と縁部塗布の粘着剤につき異なる解釈をなすべき根拠となる記載は本件明細書中に見当らない。

4  原判決二七枚目裏九行目の「いずれも」から同一二行目の「れる。」までを「本件考案の粘着剤についての出願審査経過は控訴人主張(事実摘示三3(二))のとおりであることは当事者間に争いがない。」と、同二八枚目表一二行目の「した」を「して、漸く出願登録をえた」と、同末行目冒頭から同裏五行目末尾までを、次のとおり、各訂正する。「以上のとおり上下縁部に塗布される粘着剤の表示か変遷しており、右は考案の出願として物品であるアルバム台紙の縁部の構造又は形状について、構成要件(B)として特定しようとするものであるところ、この特定は縁部自体たけ、或いは中央部その他隣接部との関連での各特定のための標準(標識)によらねばならないのであつて、このことは、前記の実用新案権の対象である考案(特に物品の構造)について要求される要件、これを前提として定められた明細書の記載に関する法規の定め(法五条二ないし四項、同施行規則二条様式第三、7、8、12、13、同第二条の二)に照らし明らかである。そして、更に前記一般的に台紙に塗布される粘着剤の科学的性質及び、その製造工程における公知の技術的知見を加えて検討すれば、右当初の「薄めた不乾性接着剤」の記載では、〈1〉中央部の粘着塗布 との関連で、同じ固形成分の配合内容率のものを水で薄めて固形成分の量を減らした場合(この場合は塗布面積の平面形状に基づく区別基準がない限り、結局塗布層の厚さの厚薄に帰し、その特定標識が必要となる)、〈2〉右同粘着剤を水で薄めずに薄く塗布する場合(右括孤内と同じ問題がある)、又は〈3〉増量剤等を加え固形成分の配合内容、率の異なるものを塗布する場合(この場合は剤の相違を区別できる特定標識が必要となり、さらに後続記載「老化防止剤を入れた不乾性粘着剤」との関係が問題となる)、以上の各場合が含まれるか否かの疑念を生じ範囲が漠然とし、結局、物品の構造を組成する物品相互の特定に欠ける疑いが濃く、このことは専門家の出願代理人にとつて容易に知りうるところであつたというべきである。そして、以上のところと、前記(本項一(二))の本件考案の目的としたところを解決すべき手段のうちには考案としても種々ありうる点を総合すれば、他に特段の事情も証拠上認められないので、右補正の経過を経て、本件構成要件記載となつた「縁部に粘着力が前記不乾性粘着剤より小さい不乾性粘着剤を塗布して」と補正した控訴人の意思は、右種々ありうる縁部の構造、形状に関する考案構成のうち、中央部の塗布層と塗布粘着剤の属性である固有粘着力を基準として中央部のそれより小さい(これは科学的分析、測定により容易に認識できる区別標識といえる)別種の粘着剤の塗布層の機械的結合からなる構成のアルバム台紙表面の構造に関する考案を選んだものであつて、同じく考案のうち形状に関するものを併記又は含むものとしたことをうかがわせる記載は本件明細書の全体をみても見当らず、成立に争いない甲八ないし一五号証によれば、右出願審査経過においても見当らない。なお、以上認定に反する控訴人の右補正の意図に関する主張事実はこれを認めるに足る証拠がなく、又特許庁の拒絶理由に控訴人主張の疑問点があつたとしてもこのことは右認定の妨げとなるものではない。 」

5  原判決二八枚目裏六行目の「以上」から同一一行目の「証)は」までを「さらに、本件考案出願当時の控訴人の本件考案の構成要件(B)のうちの「粘着力が小さい不乾性粘着剤」に関する認識についてみるに、成立に争いない甲三一、三六ないし四一号証によれば次の事実が認められ、これに反する証拠はない。すなわち、本件考案出願一過間後に出願した本件アルバム台紙の綴込部に関する実用新案権(実公昭五四-二七一号)の出願経過は、先ず本件考案の出願と同じものとの理由で出願登録が拒絶され、これに対し、控訴人が意見をのべ、明細書及び、同請求の範囲に上下縁部と綴込部の構成要件につき当初「厚紙の上下縁部と綴込部以外に不乾性接着剤を塗布し、該厚紙の上下縁部と綴込部とに薄めた不乾性接着剤を全面に塗布してい……」と記載していたものを」と、同二九枚目表三行目冒頭から同五行目の「あるが」までを「と補正して登録をえたものであつて、その補正箇所は上下縁部と綴込部の粘着剤についてであつて、この点につき、右意見書及び同明細書において」と、同二九枚目裏二行目の「異なる」から同六行目末尾までを「その塗布層の構造が粘着力を基準として両者異なる別種の粘着剤の結合からなることを明示している。以上の事実関係によれば、控訴人は本件考案の構成要件(B)における「粘着力が前記不乾性粘着剤より小さい不乾性粘着」についても右同様の認識を有していたものと推認することができ、右推認を妨げる事実は証拠上認められない。」と各訂正する。

6  原判決二九枚目裏七行目の「したがつて」から同三〇枚目裏一一行目末尾までを次のとおり訂正する。

「 以下の次第で、右1ないし4を総合すれば、本件考案の構成要件(B)は、上下縁部に、中央部の塗布層の粘着剤と粘着力を区別基準としてそれがより小さい粘着剤の塗布層がある特定の塗布層を意味し、同構成要件(A)と相まつて、台紙の中央部と縁部の粘着剤の塗布層が粘着力が前者が大、後者が小なる別種の粘着剤の塗布層の機械的結合からなる台紙表面の「特定の構造」を意味するものと解釈するのが相当である。

控訴人の中央部より縁部の粘着力が小さく仕上つていることが本件構成要件(B)の考案構成である旨の主張は前記のとおり採用できず、又控訴人は本件構成要件(A)(B)の「塗布」は製造方法を表示したもので、考案では「方法」の実施の結果である中央部より縁部の粘着力に格差が存しさえすれば、方法の如何を問わず右構成要件(B)に含まれるとも主張するが、右「塗布し」が製造方法自体の記載と解すべきでないことは前記のとおりであるのみならず、構造に関する特異の主張を前提とするものであつて、同じくとりえない。

そして前記のとおり、イ号物件の縁部に付着している粘着剤が、中央部のそれと同じ粘着剤であり、したがつて粘着力も同じであることは当事者間に争いがない。 」

7  原判決三〇枚目裏一二行目冒頭の「る。」を削り、同三一枚目表七行目の「証)は」の次に「、以上のところに照らし」を付加し、同七行目と八行目の間に「よつて、請求原因2は理由があるが、控訴人の主張(事実三3冒頭及び(一))は理由がない。」を付加挿入し、同末行の「請求」の前に「1」を付加し、同裏末行の「六1」を「ついで」と、同行末から同三二枚目表一行目の「に弁論の全趣旨」を「、前認定の本件考案及び本件後願考案の各出願審査経過事実並びに前掲乙五ないし七号証、同一四号証、成立に争いない甲一六ないし二一号証、前掲証人中林の証言によれば、控訴人は右警告書の被控訴人とその販売先への送付直後の昭和五八年八月八日と二四日に被控訴人より抗議を受けながら、後記2(二)の内容の回答をなしているに止まり、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することの第三者的専門家の鑑定等の意見を根拠として示すことをしていないこと、イ号物件の縁部に粘着剤が付着していることの実験結果書はいずれも右抗議書受領後かなり経過した後に作成されたものであり、控訴人主張の根拠となりうる本件考案の技術的範囲に関する鑑定書は、さらにおそい翌五九年一二月二五日付で作成されており、他に右警告書送付前に控訴人が本件考案の技術的範囲につき確たる専門家の見解をえていたことを認めるに足る証拠がないこと」と、各訂正し同三二枚目表五行目の次に「そうだとすると控訴人の右内谷証明郵便送付行為は不正競争防止法一条一項六号の行為に該当するというべきである。」を付加し、同八行目の「成立に争いない」を「つぎに、前掲」と、同裏八行目の「その信用」から同九行目末尾までを「右シエアを獲得するに相当する信用をえている。」と、同三三枚目裏一二行目の「この損害」から同三四枚目表二行目の「せしめ」までを「また」と、同三行目の「こと、そ」を「と認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。」と、同四行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり各訂正する。

「3 前項認定事実関係に加え、控訴人において被控訴人の右営業上の信用回復につき適切な措置をなしたことについては何ら主張立証もないことを総合すれば、控訴人は被控訴人に対し、不正競争防止法一条の二、三項に基づき、被控訴人の本訴請求によりその営業上の信用回復処置をとり、併せて損害賠償をなすべき義務を負うものというべきである。

そして右信用回復措置としては被控訴人の請求趣旨2項どおりの広報を同態様で掲載せしめるのが必要かつ相当であり、右信用失墜に対する非財産的損害の算定は、併せて認容される信用回復措置により信用の回復の実効があがること、被控訴人の営利会社としての非財産的損害につき前認定以外に特段の立証に乏しい点、前記控訴人の不正競争防止法該当行為の熊様等を総合斟酌すれば結局二五〇万円と評価するのか相当である。 」

8  原判決三四枚目裏七行目から一〇行目までを削る。

二  以上の次第で請求原因8、9は原判決理由四、五項判示の限度で理由があるので、本訴請求中控訴人、被控訴人間で控訴人がイ号物件につき本件実用新案権に基づき製造敗売の差止請求権を有しないことの確認を求める請求、不正競争防止法に基づく請求の趣旨2項の広告掲載を求める請求はいずれも全部、同法に基づく損害賠償請求は金二五〇万円及びこれに対する前記不法行為の後である昭和五八年一〇月二七日以降右完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よつて、被控訴人の本訴請求は右限度で認容し、控訴人の反訴請求はすべて棄却すべきであるから、原判決は本訴請求のうち損害賠償請求を全部認容した部分は相当でなく、本件控訴はこの限度で理由があるので認容することとし、原判決主文三項を主文一項のとおり変更し、その余の控訴は理由がないので棄却することとし、民訴法三八四条、三八六条、九五条、八九条、九二条、一九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安達昌彦 裁判官 杉本昭一 裁判官 三谷博司)

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